想定外と想定内の安全保障
羽田空港のエボラチェックが陰性で何よりであった。想定内の態勢によって安全が保障された今後は、このような一つ一つの安全確認が足腰の強い体制構築に結びついていくことは確かだ。
そこでエボラの脅威に関係する「想定外の脅威」を考えてみた。さて、「国際社会の法と秩序に真っ向から挑戦している非国家主体のイスラム国においてエボラ出血熱が発生した」という事態に何が考えられるか。ひとつは、このならず者集団を壊滅する恣意が働いて、何らかの手段でイスラム国を名乗る集団内にエボラ出血熱発生を企てる。次が偶発的伝染である。三番目は、「イスラム国」が加害者になって行う「エボラ・テロ」である。この場合は「イスラム国」内部にエボラの感染は起きないだろう。しかしいずれも封じ込めが失敗すると地球規模の災難が拡大する。
エボラ出血熱の初期患者を誘拐して金を与えて動かせばウイルスを運ぶことができる。自爆テロであっても重量物を身につけて運搬しなければならないわけで、「身一つが極めて深刻な被害を及ぼす生物兵器」であるわけだ。このような想定を持ち出すこと自体がはばかられるのであるが、蓋然性は、集団的自衛権に関する15事例に比べても決して低くない。
「イスラム国」を自称する集団内には四方八方からの兵士願望者が流れ込んでいる。しかも彼らの世界は外界を拒絶した鎖国社会で国際社会の秩序を拒否しているから、エボラ出血熱患者の発生があってもWHO(World Health Organization)は関知できないし、周辺諸国地域だけではなくさらに多数の国が影響を受ける。
しかし、他方で影響を与えられないという厄介な悩ましい問題は一層厳しくなっている。
想定する範疇でありながらかえりみられない想定について中国の航空母艦保有は、確かに脅威である。海上自衛隊出身の専門家は冷静に分析している。今や、海軍という組織を運用するには、プラットフォームである艦艇が有れば、それで戦えるという簡単な話ではない。しかし、航空母艦1隻が最大の戦闘力を発揮するためには専門外から見れば想像を超える付帯装備を必要とする。
電子化された複雑な運用システムを難なく使いこなす優れた要員、搭載戦闘機と優れたパイロット、空中の索敵及び警戒監視のための早期警戒機、水中の索敵のための対潜ヘリや哨戒機、水上・水中の敵艦隊を寄せ付けない護衛潜水艦と護衛水上艦隊、衛星・通信電子機能を駆使する情報システム、所要補給艦の随伴などなどがワンセットで航空母艦の戦闘力が保証されるのである。
また中国を対象にした政戦略については、「尖閣列島に手を出してきた言動が終焉することはあり得ない。中国は、歴史的に、奪われた領域を取り戻そうと行動を起こし、振り上げた手は収められないのである。国民の目に政府は常に強くて他国に比べ優れて映らなければならない。しかし戦争は回避したい。だから非軍事勢力を出動させている。もはや、手をおろせないばかりか、『自分のものだ』と言ってしまったメッセージの撤回もできないのである。
この中国とどうやって付き合っていくのか。日本は、対峙姿勢を貫くばかりではなく、中国がアメリカと肩を並べる圧倒的な軍事力に達するには、まだまだ時間がかかる。
日本は、今すぐにでも戦端を切られたら負けてしまうといった軍事力における『精神的劣勢』に陥る必要は全く無い。その間にこうして知恵を絞る意味がある。
IGIJ理事 林 吉永
PAGE TOP