新たな日米同盟の中核に据えられる日本の安全保障体制
NPO国際地政学研究所 三森 治生 会員
日本は、1945年以来、平和国家として歩んだ。現行憲法において、平和主義を述べ、経済大国としてのサクセスを実現した。他方で、アメリカGHQの占領政策は、日本の民主化、日本の非軍事化を基本として推進された。
しかし、中国建国、朝鮮戦争といった大変化がアジアに発生したため、アメリカGHQは新しいポリシーを打ち出し実行した。アメリカは、日本に対してアジアにおける反共のベース・マネージメント(橋頭保)の役割を要求したのである。
1951年、サンフランシスコ講和により日米安保は成立した。そして、日本外交の中核に据えられたのは、吉田ドクトリンに代表される「エコノミー最大化」、「ミリタリー最小化」の国策実現であった。日本の安全は、日米安保締結によってアメリカの世界戦略と一体化したのである。
日本の領土内に米軍基地を提供、アメリカ軍が駐留するというギブ・アンド・テイクのバランス・オペレーションの実現であった。さらに、日本の経済発展に伴って戦後を脱した日本国内の、「日本とアメリカは対等でなければならない」という意見に対応して、1960年日米安保は改定された。
それでも日本は、基地提供の義務を負い、それによって盤石の対アジア戦略の構築が可能となるアメリカは、日本防衛の義務を負った。そして、日本が占領下に在った時代と異なり、アメリカの日本におけるミリタリー・オペレーションが行われる場合、日本との事前協議を義務付けたのが「新安保条約」である。
この時代から、日本の基本ポリシーが形成された。
1960~1970年において、アメリカは、対ソ連デタント、ベトナム戦争への長期介入、国内混乱、対外ポリシーと変化が生じた。1969年、ニクソンは、ニクソン・ドクトリンを表明し、同盟国の責任、防衛負担の拡大を求めたのである。これを受けて、1976年、日本政府は、防衛計画大綱を成立させ、基盤的防衛力、抑止力、侵略に対応する能力を向上させた。
冷戦が終わり、1991年、新しい軍備管理が必要となった。つまり、トータル・ミリタリー・マネージメント、すなわち新たな核のマネージメントが始まった。
先進の国防とは、ミリタリー・テクノロジー・イノベーション対応、コンパクト化、ハイテク化対応のミリタリー・オペレーションを可能とし、テロ対策にも対応しなければならない。このミリタリー・マネージメントには多くの国が関心を寄せている。日本は、潜在的にはミリタリー先進性を有している。1980年、ロナルド・レーガンの強いアメリカに対応して、日米同盟が深化、日米連合共同体として公共財となった。
その具体的な動きは、1996年の日米安保再定義、1998年には、日米ガイド・ラインが成立して、アジアのリスク、クライシスに対応するコンセプトを形成した。1999年、周辺事態法、新日米協定、自衛隊法改正が進められ、日米同盟が強化された。総じて、日米ガイド・ラインは、「平時・有事前・日本有事・周辺事態」と四つの区分に従って方向性と対応を示している。
日本は、アメリカへの後方地域支援の実行を分担する。さらに今後は、集団的自衛権の行使を遂行しなければならなくなった。これこそが真の日米同盟であり、国家の生存、国益の最大化を可能とする体制である。しかも、日米同盟は、両国が両国の国益に対応しなければならない。つまり、日本とアメリカ双方のためのサポート・オペレーションであって、それは当然の対応である。そのためにも、日本の役割、分担の責任を明確にするのである。
安全保障に係る国家意思を相互に表明するシステムとして最善の機能が事前協議制である。今後は、リスク、クライシス対応のため、日本は対処能力を向上しなければならない。
ドナルド・トランプは、不満を表明している。アメリカには、義務、責任があるが、日本には無い。アメリカの若者は日本のために血を流すのだが、日本は何もしない。この不満に、日本は対応しなければならない。
国際政治の現実において、アメリカは、日米同盟に最高の価値があると評価している。日本国は、アメリカの戦略的ベース(基盤)であるため、先進のミリタリー・オペレーションにより、全ての有事に対し、パーフェクトな対応が求められる。ところが、アメリカは、世界に唯一のスーパー・パワーでありながら、そのスーパー・パワーにリミットも発生している。
アメリカと他国の同盟が片務的で補完的であることを考えれば、日本は、21世紀、戦略的地位の向上、軍事的貢献の必要がある。日本は、同盟国としてアメリカを支援するのみの立場から、日本のプレゼンスを向上していかなければならない。
また日本政府は、日本国憲法、国連憲章、日米安保条約の整合性を考えなければならない。
日本国憲法は、アメリカGHQが日本を二度と軍事大国にさせないため、占領政策を手段として利用して制定したという歴史的事実を忘れてはならない。日本国憲法は、解釈上、集団的安全保障を禁止している。国連憲章は、国家の集団的安全保障を固有の権利としている。日本国憲法での「日本の安全」は日本の外交努力によるとし、国連憲章で守られると述べている。
これでは混乱するのが当然である。国際政治は、力の支配、そしてミリタリー・マネージメントに依存し、力の中核は国連であるとする。日本が頼る日本国内のアメリカのミリタリー・ベースは、陸/海/空軍・海兵隊配備であって、しかも、第7艦隊は世界最強である。重ねて言うが、アメリカにとって、日本国内に米軍が駐留し、日本国内のアメリカ・ミリタリー・ベース・のマネージメント・オペレーションがアメリカの地球規模ミリタリー・マネージメントの50%を可能にしている戦略的根拠地となっている。
アメリカの世界戦略は、日本が基本であると言って過言ではない。国際政治では、力の支配が基本である。しかしアメリカのグローバル・マネージメント、アメリカのグローバル・ポリス・パワーのオペレーションもアメリカのミリタリーが根源に在るのだが、そのスーパー・パワーにはリミットが発生している。
中国の核ミリタリーの開発、北朝鮮の核プレゼンスは自明である。しかも核を大量に保有するロシアは、極東に世界一の戦術核の基地を作ったと推測されている。
このように考えるのは、ミリタリー・ポリシー(軍政)のミスを是正すること、核の無い世界の安全ポリシーを構築することを目標とするからである。
そして、ある時期からアメリカは、ヨーロッパ、中東、アジアにおける戦略的対応に翳(かげ)りが生じている。世界情勢の変化に対応できる新しい世界戦略が不十分であることが顕われてきた。
日本がアジアにおいて、中国、北朝鮮と紛争になった場合、核の問題が発生する。
抑止力であった核にリスクが生ずる恐れがある。このため核のクライシス対応の国体を考えなければならない。すなわち、このリスク、このクライシスは、次のように整理できる。
1通常戦争のエスカレートから核の偶発戦争への移行
2核保有国の増加に反して核抑止のリミットが生じている
3核ミリタリー・テクノロジーのイノベーション(新しい精密ミリタリー)が出現している
そこで、日本はアジアで予想される限定的核戦争に対する備えを示さなければならない日本政府は、核戦争避ける対策、安全保障に適応した合法的軍事態勢を作らなければならない。核の戦略時代対応の軍事戦略が日本には必要である。日本の新国家戦略には次の事項が求められる。
1新国防理論の確立
2新日米同盟の締結
3新憲法の制定
(以上)
三森治生会員:東海大卒/(株)ハル・リスク・マネージメント 代表取締役
日本危機管理士機構会員